す。




<テレキャスターというエレキ・ギター #9>

 
じゃぁ〜ん!!すごいテレキャスターでしょう!!
これはフェンダーのエレキ・ギターのマスター・ビルトというモデルです。カスタム・ギターを設計製造するフェンダー・カスタム・ショップという部門で、マスター・ビルダーが作るギターとのことですが、ここまで書いた僕自身よくわからない言葉が沢山あります。

そもそもカスタムには 習慣、慣習、注文、あつらえ、などの色々な意味がありますが、カスタム・ショップとはギターの注文生産するところなのでしょうか?どうも注文を受けてから作るということでもないようで、一般普及型のものより色々細かく凝って、グレードの高いものを作る部門と僕は受け取っていますが、今度フェンダーの関係者に聞いてみようと思います。

そしてマスター・ビルダーとは? 僕が知っているマスターがつく言葉には、カンフー・マスター、マスター・スパイ、テレマスター(テレキャスター・マスターの略)などがあります。いずれもその道の上級者、師匠格の人ですね。ですからマスター・ビルダーはやはりギター作りの道を極めた達人なのでしょう。

通常、ギターは工場の製作ラインの順番に、例えばボディーにネックを装着するのが専門の人、ネックのヘッドにペグ(弦巻き)を着ける人、などと複数の技術者の手をかけて出来上がるわけですが、マスター・ビルトはひとりの達人ビルダーが全ての部分を手がけて、責任を持って最後まで作り上げるワン・アンド・オンリーのギターです。しかも機能だけではなく見た目の美しさもすごく、一般普及型にはない色々な装飾があって一目で高級品とわかりますから、当然値段も高くなります。そしてモデルには色々あって、テレキャスあり、ストラトあり、その他のフェンダー・ギターもあるようです。

僕のバンド仲間がこのマスター・ビルト・テレキャスターを何本か持っているので、ぜひ手に取ってみたくなり、先日それを借りてきたのが下の写真です。これはランチ(牧場)仕様デザインになっていて、まずボディーの縁取り(バインディング)には牧場の土地の境界線に使われる鉄条網が埋め込まれています。これは上の写真のシェリフ(保安官)仕様テレと同じですね。ボディーの表面には、贅沢にも虎目模様の木で馬上で投げ縄を回すカウボーイが彫り込まれていて、しかも何と!ピックガードは牛の毛皮ですよ。ストラップにもお揃いの毛皮が使用されています。そして金具部分は全て飾り彫刻された美しい銀製で、こんなに飾ってあるので製作するエネルギーは全部それらの装飾部分に集中していて、音の方は大した事はないんじゃないかな?と思うとさにあらず、音もビシッと決まって良い感じだし、大変弾きやすい指板とフレットですから、さすがはマスタービルダーの仕事じゃ!と大拍手をしたくなる出来上がりです。

 

更にこのランチ仕様テレには、セカンドストリング ・ショルダーストラップ・ベンダーという仕掛けが施されています。ボディー上部のストラップ・ピンが可動して、そこからボディーの裏に掘り込まれた溝を通って2弦とつながった針金を引っ張る(実際にはネックを下方に降ろすと肩にかかったストラップがピンを引っ張ることになるのだけど、文章で説明するのが難しいです)と、2弦が引っ張られて一音上がるようになっていてスチール・ギターのチェンジャーと同じ働きをするのです。引っぱり具合を加減すると半音も出ますが、調節はすごく難しい。
この音の動き自体は指でのベンディング(チョーキング)でも出来るのですが、1 弦から3弦までを和音で押さえると指を2〜3本使うので、そのままでのベンディングが出来ない。しかしこの装置があれば可能なのです。これは『ミスター・タンブリン・マン』で有名なフォーク・ロック・グループ『バーズ』(The Byrds)の後期( ’68年)からメンバーに参加したギタリストであるクラレンス・ホワイトが、やはりメンバーだったジーン・パーソンズともに考案したギターで、カントリー・ロックという当時の新ジャンルの音楽スタイルを弾く為に、ギターでスチール・ギター効果を出す装置です。

そもそもテレキャスターでスチール・ギター的なフレーズを弾きたいと考えて研究したのはジェームス・バートンが最初なのです。彼はそうする為に、ギターよりテンション(張り)の低いバンジョーの弦を使って、スチールっぽいベンディングが楽に出来るようにして、結果的には現在のハード・ロックにまで影響を与えたギター奏法を開発しました。
しかし何故わざわざ他の楽器のようなフレーズを弾きたいと思ったのか?

スチール・ギターのチェンジャーは元々カントリー・フィドルが出す音、つまり keyがCの場合、二つの弦を同時に弾いて、上にG音(ソ)を響かせながら下でD〜 E(レ〜ミ)の動きのある音程を弾くという作業を出来るようにするものです(であろうと僕は思うのです)。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズも、『ホンキートンク・ウイメン』のイントロでこのフィドル的なフレーズをベンディングで弾いて、曲をカントリー・フレイバーなロック、つまりカントリー・ロックに仕立てています。ここでも湧く同じ疑問、 何故他の楽器のようなフレーズを弾くのか?

本当の答えは僕も知りませんが(なんだよっ?!)、実際にジェームス・バートンのコピーをして、スチール・ギター的なフレーズを弾くと感じるのはそのフレーズのキレの良さ、本来その楽器ではあり得ない個性のフレーズを弾く面白味、といったものを感じます。スチール・ギターにすごく似ているがどこか違い、聞いているといつのまにかスチールでは弾けないエレキ・ギターのフレーズになってしまうのが面白いのです。
またこの逆にエバリー・ブラザースの『ルシール』などはエレキのソロだと思って聞いていると、どこかスチールっぽい響きになります。サステイン(音の伸び)の感じでそう思うので、真相はわかりませんが、僕はスチール・ギターのソロだと信じています。

話が本道から横道に入ってしまいました。以前にも僕はベンディング・ システムの付いたギターを弾いたことがありますが、そういう装置を使わずに、指ベンディングでスチール効果を出す方が自分には合っていると感じていました。これは#5でも書いたことなのですが、ジェームスと一緒に演奏する機会があった時、彼にベンダーをどう思うか聞いたところ、あまり好きではないとの話でした。理由はたぶん僕が感じたことと同じでしょう。なにしろ指で弾くスチール・ギター・ライクなフレーズを開発したご本人ですからね。<br><br>しかしこれは好みの問題ですから、どっちが正しいとか邪道とかいうことではありません。実際おもちゃで遊ぶような気持ちでベンダーを使ってみるとそれなりに面白いのですが、使いこなすには相当練習が必要で、僕はそこまでやろうという気にはなりませんでした。またこの装置はギターが相当重くなるもので、ボディーの裏に溝を彫り込んで作り付けられた製品しかなくて高価にもなります。他にヒップ・ショットというストラップ・ベンダーより安価で、手軽に普通のテレキャスターに取り付けられて同じ効果を出す仕掛けもあります。

またしても話が随分それましたが、他にもサーフィン仕様とか様々なテーマで装飾を施したマスター・ビルトが沢山あります。僕はフェンダー以外のギターに関してはほとんど知りませんが、こんな風にギターを色々な仕様で楽しむことを、他のギター・メーカーはやっているのでしょうか?
下記のウエブで幾つかマスター・ビルトが見られます。
写真(上)のシェリフ・バッジとピストルがボディーにくっついていて、鉄条網のバインディングのある西部の保安官仕様のモデルはArchiveにありました。
http://www.fendercustomshop.com/index.php/gallery/master-builtgallery/

http://www.pbase.com/jroy/customshop03

このYou-tubeの5’ 55”のあたりで孔雀をテーマに装飾されたマスター・ビルト・テレが見られます。
http://wn.com/ NAMM_'10__Fender_Custom_Shop_60th_Anniversary_Telecasters_Mast erbuilt_Yuriy_Shiskov_Peacock_Tele

ギターは音が全てだ!!と言い切ることは出来ず、音の次は良いルックスだったり、ルックス優先になることすらあります。あんな写真を見たら、音は聞かなくても欲しくなりますよね!これはシンガーが歌唱力のみにあらず、色々な魅力を兼ね備えた人がスーパー・スターになるということと似ていますね。

先日のライブでマスター・ビルト・テレを使ってみましたが、せっかくですからギター仕様をお客に説明するとオーッと言う声が聞こえ、感心したような笑顔も見え、けっこう興味を持ってくれたようです。音を出す以前に楽器の存在自体がエンターテインメントになったわけです。
ステージで弾いてみて結局わかったことは、やはり音も良くルックスも良い楽器を弾く事は大変楽しい!という当たり前なことでしたが、反面ボロボロで傷だらけのシブいテレキャスにもまた魅力があり、両方持っていたいというこの贅沢な欲求は、シャブシャブを食べるのに醤油ダレも良いがゴマダレも欲しい!!という気分に似ていますね。こっちは似てないか?!

ところで教則DVD 『カッコ良い! フェンダーテレキャスター奏法-2』 を現在制作中ですが、秋には発売になると思います。

2011年7月

(テレキャスターに関する話題を、ぜひBBSに寄せてください。)


 



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